KDBカップ2025:未来のスターたちが激突する瞬間
Rob Scotland (カバー写真 by Gaspard Modest, Translation By Ai Farkas)

第8回KDBカップでは、ヨーロッパの次世代がVeoのAIカメラの前で、世界にその存在を示し、ドラマ、歓喜、そして魔法のような瞬間が次々と生まれました。
5月の暑い週末、ベルギー・ドロンゲンに1万4,000人もの人々が集まりました。KDBカップの舞台に足を運んだ彼らが期待していたのは、レベルの高いユースサッカー。でも、そこで目にしたのはそれ以上――未来のスターたちが、その才能を堂々と世界に示す姿でした。
第8回となる今回のKDBカップは、始まる前から“特別な大会”になる予感がありました。でも、実際に繰り広げられたドラマは、その想像すら軽く超えていきました。
VeoのAIカメラがすべてのプレーを捉え、その映像は135カ国以上に配信。25万人以上がオンラインで観戦し、きらめくプレーや涙の瞬間、選手たちの未来の可能性が随所に映し出されました。これは単なるユースの大会ではありません。サッカーの“これから”を感じさせてくれる、まさに特別な2日間でした。
全てが変わった土曜日
午前9時30分、最初のホイッスルが鳴った瞬間から、すべてが動き始めました。そして、ほんの数時間後には、トーナメントの流れがまるでひっくり返ったかのような展開に。
前回王者として乗り込んできたマンチェスター・シティ(イングランド)。中盤を支配するザビエル・パーカーを中心に、連覇も見えていたはずでした。──しかし、バルセロナ(スペイン)が立ちはだかります。グループBはまさに激戦区となり、準々決勝を迎える頃には、シティの王座は崩れていました。バルセロナに2-1で敗れたことで、大会に衝撃が走ります。
「選手層を考えると、全体的に見てシティは少し物足りなかったかもしれない」と、サイドラインで見守っていたある専門家は語りました。

グループAを圧倒的な強さで制したのは、バイヤー・レバークーゼン。KAAヘント(ベルギー)に3-0の快勝、マンチェスター・シティとも1-1で互角に渡り合い、確かな存在感を示しました。そして彼らが準々決勝で迎えた相手は、地元ベルギーのクラブ・ブルッヘ。
ブルッヘは、主催者から「死のグループ」と呼ばれた組に入りながらも、見事に突破。バルセロナとの1-1のドローで勢いに乗り、PSV(オランダ)には4-0と圧倒的な勝利を収めてグループ突破を決めました。
チェルシーはグループCでのアンデルレヒト(ベルギー)戦を1-1の緊迫した引き分けでなんとか乗り切り、準々決勝進出を手にしました。次なる相手は、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)です。
準々決勝でのドラマ
クラブ・ブルッヘ対バイヤー・レバークーゼン(ドイツ)の一戦は、1-1のまま決着がつかずPK戦へ。スタンドを埋め尽くした地元ベルギーのファンの大歓声を背に、ブルッヘは見事な集中力で勝利を掴みました。
しかし、この日もっとも注目を集めたのは、チェルシー対バイエルン・ミュンヘンの一戦。ユースサッカーの魅力が詰まった、まさに劇的な試合でした。
チェルシーは2-3とリードを許し、万事休すかと思われた終盤です。PKのチャンスで同点に追いつくかに見えましたが、これを外し絶体絶命。──試合終了かと思われたその時、あるドラマが生まれます。
その奇跡を起こしたのはヘゼカイア・グリムウェイド。試合終了間際に得たFKの場面で、彼は迷わずゴールを狙い、見事ネットを揺らしました。土壇場の同点弾で試合はPK戦に突入。チェルシーはまたしても底力を発揮し、勝利をもぎ取りました。
一方、PSG(パリ・サンジェルマン、フランス)はアンデルレヒトを2-0で退け、すでに次のバルセロナ戦に照準を合わせていました。
語るに値する、ひとりひとりの物語
今回の大会で注目されたのはバルセロナでしたが、この週末にはそれ以外にも心を動かす物語がいくつも生まれました。
チェルシーのレジー・ワトソンは、自身の年齢の倍はあろうかというほどの落ち着きで中盤を指揮しました。すでに年上カテゴリーのイングランド代表でもプレーしている彼の実力は、この大会で改めて証明された形です。アンデルレヒト戦でのゴールを演出したパスは、まさに完璧そのもの。もしジョージ・ジョブリングをはじめとする主力が揃っていれば、チェルシーの運命は違っていたかもしれません。
そして、地元ベルギーのクラブ・ブルッヘによる鮮やかな快進撃もなかなかのものでした。地元の声援を背にプレーすることで、選手たちに特別な力が宿る。そのことを証明してみせたのが、ゴールデンブーツ(得点王)を獲得したマッテオ・ソリアです。
「この年代で、ここまで完成度の高い“9番”はなかなか見られない」とある観客は称賛。彼のベストゴールは、まさにお手本のような動きでした。中盤まで下がってボールを受け、ワンタッチで味方に繋ぎ、そのままプレーに絡み続けて最後は冷静にフィニッシュ。これは教えられてできるものではなく、生まれ持ったストライカーの本能そのものです。

「トロフィーを獲れたことは嬉しいですし、KDBカップを経験したタルビ、サッベ、デ・ケテラーレといったクラブ・ブルッヘのプロ選手たちのように、自分もその道を歩んでいきたいです」と、ソリアは振り返りました。
また、ブルッヘのキャプテン、ジョナ・ビリエはバルセロナのコーチ陣からも高く評価され、「大会を通して最も印象に残った相手選手」とまで言わしめる存在感を示しました。
一方、早期に姿を消したPSGも、そのクオリティは随所に輝きを見せました。アクセル・クーカバの守備、ハリル・ムボマのダイナミズムなど、このアカデミーが次々と優れたタレントを輩出する理由が随所に現れていました。同様に、マンチェスター・シティのザビエル・パーカーと、PSGのアクセルは、それぞれチームが早期敗退となったにも関わらず、際立った存在感を放っていました。
わずかな差が、運命を変える
「この大会は、“ほんのわずかな差”で決まる」ーある観客のその言葉は、まさに的を射る表現でしょう。
バルセロナとPSGの準決勝は、まさにその“差”が勝敗を分けた一戦。ガルセスの同点ゴールは、この大会での彼のハイライト。まさに必要な瞬間に、最高の一撃を決めました。試合の多くをコントロールしていたのはPSGでしたが、それだけでは勝利には届きませんでした。
また、一方ではクラブ・ブルッヘがチェルシーを下しました。その勝因は、年齢に似合わない戦術的な成熟度。ワトソンやグリムウェイドの個人技は目を見張るものがありましたが、サッカーはあくまでもチームスポーツ。その本質を証明してみせたのは、ベルギーの選手たちでした。
あるスカウトは、バルセロナの背番号16番をこう評価しています―― 「ボールの受け方、パスのタイミングと重さの完璧さ。まるでケヴィン・デ・ブライネやモドリッチを思い出させるようだった」
それが、まだ15歳の選手に対する評価だというのだから、驚きです。
決勝戦:バルセロナ、栄光の瞬間
決勝戦は期待を裏切らないものとなりました。バルセロナがクラブ・ブルッヘを2-1で下し、見事に優勝を飾ります。両チームともに攻撃的な姿勢と高い技術力を全面に出し、ユースサッカーの醍醐味を余すことなく見せてくれました。
先制点を挙げたのはブルッヘのソリア。しかし、そこからのバルセロナは圧巻でした。プレッシング、ポジショニング、そして中盤からすべてを組み立てたのはウーゴ・ラグナス・ガルセス。彼の存在が試合を支配し、タイトルは、まさにサッカーの実力で勝ち取ったものでした。
大会MVPに選ばれたのは、まさに彼です。わずか15歳にして、まるで長年トップレベルでプレーしてきたかのような落ち着きと風格を見せました。
「一番のハイライトは、準決勝のPSG戦での同点ゴールでした」と、トロフィーを掲げたあとに語る彼。「でも、何よりもチーム全員でこのカップを掲げられたこと。それは一生忘れません」
結果以上の価値がここに
時にはスコアボードに映らない物語にも、素晴らしい価値が隠れています。
リールOSC(フランス)はフェアプレートロフィーを獲得しました。その理由は、バッセク・フォファナやカシム・ニャベンバといった選手たちの姿勢に表現されています。試合では競い合いながらも、相手を敬い、ピッチ上にユースサッカーの理想を体現。カシムにはリュディガー(ドイツのプロサッカー選手)を彷彿とさせるプレーぶりも見られました。勝敗だけでは語れない、そんなチームのあり方が評価されたのです。

バイヤー・レバークーゼン(ドイツ)のヤロン・オマーは、今大会のベストゴールキーパーに選出されました。特に後方からのビルドアップにおける配球の正確さは、各国のスカウトたちの視線を集めました。プレッシャーの中でも落ち着きを失わず、テクニカルなスキルとのバランスが際立っていました。
そして、思わぬ場所からも才能は現れます。KRCヘンク(ベルギー)のウスマン・フォファナ、そしてバイエルン・ミュンヘンのリヌス・ルートヴィヒ。このふたりは、それぞれ卓越した技術と試合理解力を披露し、国際的な注目を浴びる存在となりました。
テクノロジーが世界を繋げる
Veoのカメラはすべての瞬間を逃さず捉え、世界中の60万人以上の視聴者がその映像を通じて、普段なら見逃されてしまうかもしれない才能に触れることができました。
PSVのディラン・スタムは、その守備力と冷静さで国際的な注目を集め、マンチェスター・シティのザビエル・パーカーは、ダイナミックな中盤でのプレーから“世代を代表する才能”と比されるほどの存在感を放ちました。
Veoの映像と分析によって、この大会は他のトーナメントでは見落とされがちな「層の厚さ」までも浮き彫りにしたのです。
次のチャプターへ
ドロンゲンでもうひとつの記憶に残る週末が幕を下ろしました。そして2025年のKDBカップは、サッカーの未来がただ希望に満ちているだけでなく、確かな才能と可能性にあふれていることをはっきりと示してくれました。
この大会に集まった選手たちは、時にプロの世界で失われがちな“純粋な喜び”を胸に、恐れを知らず、自由に自分を表現していました。そして私たちに、なぜこのスポーツを愛するようになったのか、その原点を思い出させてくれたのです。
次回開催は2026年5月30〜31日。ぜひ予定を空けておいてください!今年の大会が教えてくれたのは、ユースサッカーには人を驚かせ、心を打ち、夢中にさせる無限の力があるということです。
ケヴィン・デ・ブライネがこの大会を立ち上げたのは2016年。若い選手たちがプロになる前に輝ける舞台をつくりたい──そのシンプルな想いからでした。あれから8年、この大会はサッカーが持つ無限の可能性を祝う場へと成長しています。
今週末、ドロンゲンではサッカーの未来がはっきりと感じられる素晴らしい試合を私たちに見せてくれました。その光景は言葉で言い尽くせないほど、素晴らしいものだったのです。
